はるログ

はるのブログ

【感想】ドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス

ストレンジ2、めちゃくちゃ楽しみだったので公開日に見てきました。僕はMCUの中でドクター・ストレンジが一番好きなヒーローです。強いし、ミラーディメンションは派手だし、その割にアクションがちゃんと格好いいしで、ストレンジが活躍する映画や場面は大体楽しんで観ています。結論から言うと、MoMはストレンジの好きな所が詰まった上におまけが付いてきたような大変満足する映画でした。

 

 

 

 

予習

今作は風のうわさでX-MENが絡んでくると聞いたので、X-MENシリーズを事前に見て臨みました。X-MENの感想はまた別にまとめられたらいいなと思っているのですが、マーベル実写映画化の先駆けになった作品だと思うと感慨深いです。所感としての面白さはMCUには劣るものの、ウルヴァリンデッドプールなど好きになったキャラクターも多かったです。

 

また、MCUドラマシリーズであるワンダヴィジョンを見直したり、アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロンを見直したりしました。ストーリーにおけるワンダの活躍の大きさを考えても、これらは見返していて正解でした。特にワンダヴィジョンは必須と言っても過言ではないかかわりようでした。正直、サブスクのドラマを映画本編にがっつり関わらせるのは止めてほしいと考えていたのですが、同日最終話公開のムーンナイトも含めて面白いシリーズばかりなので難しいところです。

 

犠牲のストーリー

本作は全体を通してストレンジとワンダによる、犠牲と幸せのお話でした。マルチバースという複雑な舞台装置を使いながら、(ワンダヴィジョンさえ見ていれば)とても分かりやすい軸だったと思います。ストーリーは別世界のドクター・ストレンジアメリチャベスを生贄にするシーンから始まります。僕は海外俳優の顔を見分けるのが苦手なので、側頭部の白髪部分がなければストレンジと気づけなかったと思います。この犠牲にするシーン、「唯一の方法」みたいなことを言っており、トニー・スタークを犠牲に世界を救ったストレンジをとても想起させました。人差し指を立てるシーンはストレンジの中でも好きな場面です。

 

ドクター・ストレンジはそもそも出自が医者であり、純粋なヒーローにかなり近い思想だと思います。それとは別に、大勢を救うためとなればトニーを犠牲にすることも選べる、冷静なキャラクターです。別次元のストレンジも、そういう意味では根底が一貫しています。あの一瞬でチャベスの命と光る本(名前忘れた上に調べようがない)が奪われることを天秤にかけたのだと思います。その意味では、後に出てくる別次元のストレンジよりもオリジナルのストレンジに近い存在だったのかなと思います。

 

ストーリーの序盤の舞台である結婚式では、指パッチンで消えた5年の内に飼い犬と兄を亡くしたドクター・ウエストから「もっといい方法はなかったのか」と尋ねられます。実際はドクター・ストレンジが数千万通りの可能性を予測した上で下した唯一の選択ですが、ウエストがそれを知るよしもありません。この後彼は諦めに近い納得の様子を示しましたが、これに納得できなかったのが本作のメインヴィランであるワンダです。

 

ワンダは幼い頃に両親を亡くし、EOUで兄ピエトロを亡くし、IWで愛したヴィジョンを2度亡くした悲しいキャラクターです。ワンダヴィジョンでは家族の愛を求めるあまりにヴィジョンと子供2人を能力で創り出し、疑似的な家族を作り上げました。物語の善悪で言えば、ヴィジョンを蘇らせたことと子供を創造したことは許されることだと思います。しかしそこにウエストビューの一般人を巻き込んだことが、ヒーローとヴィランの境目になったのでしょう。加えて本作では子供2人のために多数の犠牲を出しています。ワンダが敵として死んだのは悲しい終わり方でしたが、ヴィジョンの死を受け入れられなかった彼女の心の弱さが招いたものだと思います。

 

ストレンジとワンダの対比が象徴的ですが、ワンダとアメリチャベスも対比されたキャラクターでした。アメリチャベスが71もの次元を移動してきたのは、能力発動の不確定性もあるとは思いますが、別次元に消えた両親を追うためだと思います。この点では別次元に子供を求めるワンダと同じですが、ワンダは犠牲を払うどころか、(恐らく)別次元のワンダの立ち位置を奪おうともしています。最終的に自分を犠牲にして全次元を救おうとしたチャベスはヒーローであり、ワンダはエネミーでしょう。

 

マルチバース

マルチバースにおけるストレンジとワンダの扱いも対照的でした。別次元のストレンジも医者から魔術師に転向するようですが、ほとんどが「行き過ぎたヒーロー」のような扱いでした。別次元1ではアメリチャベスを犠牲に書を守る、別次元2ではサノスを倒す代償に次元衝突を引き起こす、別次元3ではクリスティーンを求めるあまりダークホールドに蝕まれます。別次元1はEGの再演、別次元2はEGの作戦が失敗した場合、別次元3はまんまホワットイフでしょう。ホワットイフのストレンジを結構本作のワンダがなぞっていたのが意外でした。ストレンジもワンダも本質は同じという話だと思いました。

 

一方、別次元のワンダは全員が良き母として存在しており、スカーレットウィッチに堕ちたワンダはオリジナル次元(アース616)だけでした。イルミナティがワンダよりもストレンジを危険視していたことも印象的です。多次元全体を見ると脅威になる母数としてワンダは希少であり、反対にストレンジは別次元に影響を与えがちということだと思います。最終的に別次元のワンダと子供に、母と子として拒否された場面は悲しかったです。この場面、次元が繋がる前にトミーとビリーが見ていたのは白雪姫だったと思います。小さい頃VHSでディズニーを見て育ったので、こんな所で思い出が活きるとは思いませんでした。白雪姫は小人たちと楽しく暮らしており、その美しさから魔女に嫉妬されて殺されるなど、本作に重なるような作品です。悲しい。

 

ストレンジとワンダの側面から、オリジナル次元は多次元全体を通して珍しい次元になるのではないかと思います。何がターニングポイントになっているのかは難しいですが、ストレンジが正しい道に進み、ワンダが闇落ちしたきっかけとなるIWが大きな出来事なのでしょう。さらに元を辿って、アベンジャーズが結成されているかも怪しいです。

 

それに加えて、ワンダが覗く全ての次元にヴィジョンが存在しないことも気になりました。ワンダヴィジョンでは、ワンダが2人の子供と同等にヴィジョンを愛していることが分かります。そのため、ヴィジョンに関心を寄せなかったのは不自然です。ここで、イルミナティの施設で働くロボットがウルトロンと呼ばれていたことを踏まえると、別次元の多くではトニー・スタークによるウルトロンの開発が成功している可能性が高いです。ヴィジョンはウルトロンの暴走に伴って生み出されたため、ヴィジョンの存在もオリジナル次元の特別性かもしれません。

 

 

ストレンジMoMで別世界にヴィジョンがいなかったの、そもそも存在しないんだろうな。アベンジャーズが存在するのがアース616だけっぽい。ワンダが一人で子供を無から作ってる気がした。

 

ストレンジ

ドクター・ストレンジが闇落ちする可能性が語られた今作ですが、ストレンジの危うさがようやく払しょくされ、ある種「親愛なる隣人」のような立ち位置になりそうだと感じました。そもそも、ストレンジはその能力ゆえに傲慢であり、1作目でエンシェント・ワンとの対話を経た上でも、相手に対して傲慢な態度を改めませんでした(IW)。また、手段がなかったとは言えアイアンマンを犠牲にすることを厭わなかったり(EG)、ヴィランとは言え見殺しにして問題を解決したり(NWH)する様子が描かれています。もし、エターナルズのような選択を迫られた時にストレンジは即座にイカリスと同じ決断を下すことができると思います。

 

作中、クリスティーンから何度か語られた「自分でメスを握る人」というのは、独りよがりという意味だと思いました。ストレンジはその能力ゆえに独りで問題を解決しようとする人間でした。そんなストレンジが今作で(裏目に出たものの)ワンダを頼ったのは、IWで協力してサノスと対峙し、NWHでスパイダーマンが協力して問題を解決したのを見たからだと思います。アメリチャベスへのスパイダーマンの話ぶりから、おそらくストレンジはピーター・パーカーのことを忘れているでしょう。しかし、ピーターの行動がストレンジの心境を変え、別次元では珍しいストレンジに成長したと考えると、NWHの悲しさが少し紛れます。NWHのピーターと同様に、本作のラストでクリスティーンに貰った時計を修理して箱にしまうストレンジは、新しい展開への進展を象徴するようで印象的です。

 

演出

ドクター・ストレンジの作品の特徴の一つとも言えるマルチバースの描写ですが、本作はいつもと少し味付けが違ってとても楽しめました。ミラーディメンションはNWHで直近に見ていたため、本作で見ても「いつもの」という感想だったと思います。一方で、本作のマルチバース描写は、世界観の変化だけでなく、コミック風、インクの世界、水中、と見慣れない世界が多数描かれました。ヘンテコな世界がMCUマネーで実写化され、それを映画館で見るのはとても楽しかったです。

 

また、ワンダを閉じ込めた鏡面世界、そしてそこから復帰するワンダも新鮮でした。僕は映画監督にあまり詳しくないのですが、サム・ライミ監督はホラーが得意な監督らしいです。たしかに最初のスパイダーマンも雰囲気が怖かった印象があります。ミラーに閉じ込められたワンダや、鐘から復帰する場面、イルミナティの研究所でワンダから追いかけられるシーンはホラー要素満載でした。僕はホラーが苦手なのですがまだ見られたので、MCU視聴者層向けに抑えてあったと思います。ゴア描写もMCUらしくなく多く、最初の一つ目のモンスターの倒し方に始まり、イルミナティの惨殺具合などが痛々しかったです。そのおかげでワンダが死ぬことに説得力が出るので良し悪しだと思います。

 

見たかった描写で言うと、個人的にストレンジが魔術を発動する時の手の動きが好きなので、ばっちりと決めるシーンが欲しかったです。このあたり、なんとなく既存のストレンジの戦い方からの脱却を目指していたように思います。具体的には終盤の音符対決とゴースト使役です。両方ともすごく変な絵面なのにギリギリの所で格好良く見えました。音符で戦うのもゴーストを使役するのも突拍子のない見た目なのですが、ピアノの旋律と共に戦ったりゴーストでワンダを抑えながら戦ったりするのは、奇抜で面白さがありました。こういう描写が突然出ると萎えることもあるのですが、前者はハープの存在、後者はストーリー序盤で出たストレンジの死体が伏線になっており、納得感と驚きが気持ち良かったです。ストレンジ好きな身としてはアイアンマンやスパイダーマンと比べて固定衣装で新鮮味がないと感じていたため、最終バトルでゾンビストレンジが活躍したのは歓迎です。

 

イルミナティ

チャールズ・エグゼビアがオリジナルキャストで登場したのは素直に嬉しかったです。この懐かしさのために、X-MENシリーズを見たのだと思いました。見始めたのは1か月前ですが。一方で、僕はMCUX-MENと接続する可能性まで考えていたため、イルミナティが別次元の一組織として普通に壊滅したのは少し残念でした。ファンタスティックフォーは小さい頃に見ていたためこれもまた懐かしかったのですが、超音波出す人なんかは完全に初見だったため期待大でした。イルミナティがワンダにボロ負けしたのはそういう役割というのは分かるのですが、既に似たキャラが活躍しているキャプテンカーターとキャプテンマーベル(マリア)の出番が長かったのは解せませんでした。イルミナティvsワンダをやるにしても、ファンタスティックと声の人の出番を増やして欲しかったと思います。

 

プロフェッサーXがワンダに負けたシーンも、もう少し爪痕を残すことは出来なかったでしょうか。ファイナルディシジョンと言い、フェニックスやワンダのような敵に対するエグゼビアの勝率が異様に低いです。せめてイルミナティの攻撃でワンダに隙が出来て逃げられたような描写が欲しかったですね。一応脚を引きずっていましたが脚にダメージを与えた描写はなかった気がします。

 

総評

書きながら思い出しているとまた見たくなるような感想ブログでした。正直最初に2時間と聞いた時は短いと思ったのですが、見ている途中はとても長く感じたくらい内容の濃い映画でした。それでいてテンポが良く、感覚的には開始10分くらいでワンダの闇落ち判明だったと思います。予告では中盤で闇落ちすると思っていたため、これもまた時間間隔を狂わせる要因だったでしょう。

 

予告でワンダの闇落ちが示唆された時から、本作におけるワンダの役割について考えていました。EGまでのワンダは紛れもなくヒーローでしたし、一つの町を操ったワンダヴィジョンでさえも最後は自らの能力にケリを付けました。正直、リンゴを剪定しているワンダが本来の姿だと信じ切っていました。しかし、改めてEOUを見ると、ワンダの精神の不安定さがヴィジョンを失う前から描かれていましたし、ウルトロンの心臓を握り潰すシーンでは根に持つ復讐者のような様子が描かれています。ヴィジョンの死を受け入れられないワンダを見ると、強大すぎる力に振り回されたワンダの引き際であるように考えがまとまりました。ワンダに自ら死を選ばせたのは、ヒーローであったワンダへのせめてもの敬意だと感じます。

 

 

ポストクレジットでダークホールドの代償を受け、天津飯になったストレンジでしたが、思ったより影響が小さそうで笑いました。それどころかエターナルズみたいな新キャラと共にマルチバースに旅立つ様子は、NWHのラストと比較しても明るく感じました。本作の展開でストレンジの闇落ちは否定されたようなものですし、僕個人としてはこの先も長く長く活躍して欲しいです。地味にウォンが生き残ったのは意外でした。ダークホールドを燃やしたあたりから死は免れないと思っていたため、「生き残ったらいいな」の諦め半分で見ていました。ウォンがソーサラースプリームであることを踏まえると、シャン・チーで闘技場に出ていたのが俗っぽすぎるように感じます。そこら辺の背景や、違和感を埋める説明が今後なされるでしょうか。

 

大量に世界設定が開示された上に、ストレンジ個人の問題まで解決され、EOUからIW、ワンダヴィジョンと続いたワンダの負の面まで決着を付けたドクター・ストレンジ:マルチバース・オブ・マッドネス、おそらくこのサーガの中でも視聴必須な作品になったと思います。次作、ソー:ラブ&サンダーはマルチバースや魔術の話は進まなさそうですが、ソーもガーディアンズ・オブ・ギャラクシーも好きなキャラクター達なので、単作で面白い作品になることを期待しています。