はるログ

はるのブログ

『十角館の殺人』をメモ取りしながら読もう!【継続更新記事】

この記事は不定期で読み進めた章に応じて更新します。

 

序文

十角館の殺人』は綾辻行人による名作ミステリーです。いわゆる「新本格ミステリー」の先駆けとされており、近年の推理小説に与えた影響は絶大なものだと言われています。僕は推理小説はそこそこ好きで、『探偵ガリレオ』シリーズ、『謎解きはディナーのあとで』、『そして誰もいなくなった』などそのときに気になった有名どころをよく読んでいます。本作も同じ流れで購入しました。

本格ミステリーの欠点として、どうあがいても初読が最も面白いというものがあります。当然ですが、犯人と犯行方法が分かり切った推理小説ほど無粋なものはないです。加えて、『十角館の殺人』は一つの新しいジャンルを生んだほどの名作です。そこで、『十角館の殺人』を読みながら気づいたことをメモして公開しようと思いました。

 

登場人物

島組
エラリイ
探偵役。モノローグは少なめ。

カー
推理小説研究会に噛み付く。中盤で死にそう。モノローグも多い。

ポゥ
医学生医学生は怪しい。モノローグは少なめ。

ルルウ
エラリイの助手役?立ち位置的にステルス力が高くて怪しい。

ヴァン
屋敷を提供した真っ先に疑われる立ち位置。ゆえに怪しくない。体調不良が後々何かのトリックに組み込まれそう。

アガサ
感情的なので犯人ではなさそう。高飛車な印象に反してとても良い人。

オルツ
最近読んだ小説でこのポジションの女の子が犯人だったので最初は疑っていた。モノローグが多い。

本土組
江南(コナン)
この小説の主人公か。エラリイが死んだあたりで島組と合流し、探偵ポジションに踊り出そうな気がする。

守須(モーリス)
安楽椅子探偵かと思ったら事件を降りた。まだ出番はありそうなので怪しさは多少ある。

島田
江南を利用しているような怪しさがある。絶対に腹に一物を抱えている。

中村紅次郎
本土組の主要人物で唯一角島を訪れたことがある。紅次郎と江南に送られた文面が微妙に違うことにまったく焦点が当てられないのが気になる。

政子
描写的に政子の発言を疑う余地はなさそう。

青屋敷事件組
中村青司
あまり良い人物ではなさそう。生存説はないと考えています。

和枝
一人だけ3日も早く殺されている。その上左手首を切り持ち去られている。和枝の死だけは他の3人と別の要因に感じている。

使用人夫婦
情報がまったくないので本土組の調査待ち。

吉川誠一
青屋敷事件の犯人筆頭。生存説はブラフであり、この人の死に方が何か重要なパーツであると思う。政子の発言から強盗や恋慕が目的の殺人の可能性は低い。

 

第一章

実はこのブログを書き始めた時点で第四章まで読んでしまっているので、三章までは思い出しながら綴ります。まず読んで思ったのは「感情移入できる登場人物がいないな」というものでした。普通推理小説には探偵やその助手など主人公的な立ち位置の登場人物がいると思います。本作ではエラリイがその位置に当たるのかと思われましたが、有り体に言えば性格が悪そうでいつ犠牲者になってもおかしくないと感じました。それどころか最初に出た6人全員、誰が死んでもおかしくないように思いました。近い作品で言うと『そして誰もいなくなった』だと思いました(というかそこから派生した作品だと思います)。

 

第二章

目次を見て多少予測していたことですが、本土パートで先に述べた「主人公」になりそうな人物が出てきたと感じました。現在起こっている事件と過去起こった事件の二軸で進むのは、現在時系列で犠牲者が出る前から面白いと感じました。また目次から、五日目以降は島と本土で分かれていないため合流するものだと思われます。

 

第三章

オルツィがプラスチック板を探すくだりから、僕の中でオルツィが犯人の線は消えました。おそらくこれは意図的で、オルツィが第一犠牲者になる可能性は非常に高いと思いました。また、他のメンバーに反抗的なカーも犯人の可能性が低いでしょう。また、誰か一人は十角館の構造を利用して殺害されるはずです。単純に思い付くのは部屋入れ替えトリックですが、それがどう殺人に結び付くかは現状思い付かないです。

 

第四章

今のところは本土パートの方が面白いです。島田や紅次郎は怪しいところが多く、島にいる実行犯と共犯の可能性も十分に考えられます。ここで、メタ推理にはなりますがこの序盤で出た推理はすべてミスリードだと僕は考えます。つまり、
①中村青司と吉川誠一が入れ替わっている
②中村青司が角島で起きている一連の殺人の犯人である

 

上記の2点は誤りであると考えてよいと思います。青屋敷で死んだのは中村青司であり、死体が見つかっていないのは吉川誠一であるという考えです。これらを踏まえて青屋敷での事件に対する考察は以下のものです。

 

以前より和枝と親しい関係にあった吉川誠一は庭仕事の途中、自室で首を吊った和枝を発見する。中村青司と使用人夫婦による和枝および千織への迫害を聞いていた吉川は和枝の無念を晴らすために3人の殺人を計画する。また吉川は和枝から財産が指紋認証の扉に隠されていることを知らされていた。また、和枝から財産を相続してほしいと言われていた吉川は個人の遺志に従って和枝の手首を切り落とし指紋認証に利用した。

 

こうすれば和枝と他3人の死亡時刻がずれている点、および和枝の手首の謎の辻褄が合うかなと思います。その後犯人がどうやって島を離れたか、についてはそもそも思考する材料が少ないように感じます。ちなみに指紋認証が当時使用されていたのか、ですが1982年には実用機が登場していたようです(舞台は1986年)。この考察は千織が上手く織り込まれている点が納得度が高いと思います。

 

第五章(7/30更新)

早速二人の犠牲者が出ました。面子は予想通りですが一日で二人死ぬのは予想外でした。たしかに目次では八日目までしかなかったため、最後の一日を推理日として二日目まで殺人がないと5人殺人が間に合いません。医学生しか犠牲者をしっかり確認しなかったのは『そして誰もいなくなった』を想起させます。まあ二番煎じはしないと思うのでオルツィらは死んだという前提で読み進めます。僕の中では犯人はポウだと思っています。オルツィとカーは先述の理由、アガサは犯人だとしたら演技派すぎる、エラリイはまだ可能性がありますが犯人が探偵である可能性に作中で言及されているので逆説的にないと思います。ヴァンとルルウは先の4人に比べたらまだ犯人の余地があると思います。僕がポウを押している理由としては明らかにモノローグが少ないことが挙げられます。推理小説などのルールとして「モノローグでは嘘をつかない」というものがあります。モノローグは常に真実を読者に述べており、それゆえに『アクロイド殺し』のような作品が生まれました。ということで考察が以下。

ポゥは中村千織の恋人(もしくは血縁関係や幼馴染)であった。医学生の卵であった彼は千織の死亡現場に居合わせなかったことを後悔していたが、推理小説研究会のメンバーが彼女の死を軽視していることを耳にしてしまう。ポウは復讐を決意した。

情報がまるでないのでハウダニットが何も思いつかないです。予想としてはエラリイが披露した2つのマジックが一つのヒントになっていると思います。例えばアガサの念じたカードを当てたことが、犯人の念じた人物に毒を飲ませることとかかっているのではないでしょうか。

 

第六章(7/30更新)

本土組と角島がかなり近づきましたね。合流のときは近いです。情報としてはよく分かりませんでした。島田の考えが読めません。

 

第七章(7/30更新)

地下室の存在が明らかになりました。僕の予想ではこの地下室が指紋認証ドアだったのですがそんなことはなかったです。地下室に潜んでいた人として有力なのは犯人、僕の予想ではポウです。ここに毒薬やプレートを隠しているというのが考えやすいですが、隠すような場所がないのか描写からは判断しにくいです。中村青司である可能性は低いと考えています。

 

第八章(7/30更新)

青屋敷事件の謎が解明されました。突然の解明すぎますが、小さな部分は置いておいて大枠はこれが真実なのだと思います。左手首の行方も納得いくものでした。現状、島組も本土組も中村青司生存説に向かっているわけですが、きっとミスリードです。また、河南が復讐心を持った人間として紅次郎の可能性を挙げようとして挙げ切らないのが気になります。紅次郎が毎晩角島を行き来しているとは考えにくいので実行犯への示唆といったところでしょうか。

 

第九章(8/4 更新)

予想外の展開です。あと3日間もあるため、このまま中村青司犯人で幕を降ろすとは思えません。おそらくここまでが事件パート、残りの章が推理パートと言ったところでしょうか。これまでのヒントで犯人が導けるはずです。残っている謎を大きく分類すると以下の3つになります。

①青屋敷事件で中村青司とされた死体は本当に吉村なのか
②第九章最後で見つかった腐乱死体は中村青司なのか
③推理研究会7人を殺したのは本当に中村青司なのか

僕は①、②に関しては真と考えてよいと思います。ここまできて推理をひっくり返す可能性は低いです。しかしながら、それを認めると十角館の殺人に中村青司は関与していないことになります。腐乱死体は半ば白骨化しているためここ数日で死んだわけではないのでしょう。おそらく青屋敷事件後に中村青司が隠し部屋でひっそりと息を引き取ったものだと思われます。

では十角館の殺人の犯人は誰でしょうか。本命はポウだったわけですがこの章で死亡してしまいました。扇桃臭の描写があったため死の偽装などではなく確実性が高いです。順当に行くと犯人はヴァンだと考えられます。序盤の体調不良もあまり物語に関わってないためここで真相や影響が明かされる可能性があります。ですがこのままヴァンが犯人だったらこの先3章も必要でしょうか?そもそもプラスチックプレートが見つかった段階でヴァンは第一容疑者にあがっていました。そこで対抗馬として考えるのがポウと中村紅次郎の共犯説です。つまり推理研究会の4人をポウが殺し、ポウは中村紅次郎に殺されたとする説です。放火したのも中村紅次郎だと思います。最後に推理をもう一転させるならこのあたりが落としどころだと思います。僕がここまでポウを推すのには理由があって、ポウが検死をしている以上死体の偽装をするならポウと内通している必要があるからです。逆説的にポウが白であった場合は犯人がエラリイ、ヴァン、外部犯(中村紅次郎)に自動的に絞られてしまいます。

 

第十章(8/5 更新)

最後の一文はヴァン=守須と考えてよいでしょうか?島に行った7人の本名を頑なに隠していたためトリックとして利用されるかとは思いましたが、本土組と島組に同一人物がいるのは思いつきませんでした。読み返すと一応守須も島組に誘われており、確実だと思います。河南がすでに推理研究会を抜けていたこと、そして守須はモーリスだろうという思い込みからこの可能性はまったく考えませんでした。

全員死亡、ということは7人分の死体が見つかったということでしょう。つまり地下の腐乱死体をヴァンの死体と警察が誤認している形でしょうか。正直警察の死体分析能力がどれくらいのものか分からないためこのトリックが成り立つか不明です。これにてフーダニットは解決です。ほとんど焦点を当てていない人物が犯人だった上に、一種の叙述トリックにもまったく気づけなかったので完全敗北ですね。正直これ以上ブログにまとめるようなこともないです。後は楽しく感想文を書きます。

 

第十一章(8/5 更新)

残り三章使って種明かしをするという予想すら裏切られました。腐乱死体は後から見つかっているのでそもそも島に向かったのが6人というのも把握していなかった状態ですね。たしかに最初の船には6人しか乗っておらず、ヴァンは別ルートでした。

 
第十二章(8/6 更新)

河南が探偵役になることすらなく犯人の独白で完結しました。オルツィの左手首の理由はとても納得のいくものでした。エラリイのマジックはまったく関係なかったですね。というより殺害方法に関してはそもそもこの小説では重きを置いていないように感じました。一番大きなトリックとしては島の6人だけが守須の同行を知っており、叙述トリックにより読者すら島に向かったのが7人と思い込んでいたことですね。エラリイが最期までまったくヴァンを疑っていない様子も滑稽でした。これにて完結。

 

あとがき(8/6 更新)

十角館の殺人』は明らかに『そして誰もいなくなった』を前提として書かれていました。やはり過去の名著を読んでおくことは大切だと感じます。振り返ると十角館での殺人は2つの事件を元にして推理することが可能でした。1つは『そして誰もいなくなった』です。『そして誰もいなくなった』では全員の死体が発見されて最後にビンに封じられた告白文で犯人が判明しています。「And Then There Were None」の文字通り最終的に被害者も犯人も0になって終わりました。2つ目は青屋敷での殺人です。青屋敷での殺人は被害者4人と1人の行方不明者です。つまり-1の結末であり、それが影響して行方不明者であった吉川に容疑がかかることとなりました。では十角館での殺人はどうだったかというと外部からは知られていない+1の犯人が追加されており、最後に-1の犯人の逃走で終わりました。つまり第三者の目から見れば『そして誰もいなくなった』と同様の0です。「もしも『そして誰もいなくなった』と同じ状況と見られた犯行に真犯人がいたら」という想定をしたことが名著と言われる所以だと思いますし、そこがとても面白かったです。

上述したように『十角館の殺人』では殺害方法はほとんど重視されていません。動機も序盤に明かされた事実がそのままで、メインは叙述トリックじみていたので推理しながら読むには向いていなかったかもしれません。しかしながら文章やキャラクター、孤島での殺人でありながら本土組で探偵を進める構成はとても好きでした。最近は文章を書くのを練習しているのですが、あまり文章が上手いと思える人の本を読めていなかったので参考にしたいと思いました。綾辻行人さんの「館シリーズ」はこの先9作目まで続いているそうなので、刊行順に読んでみたいと思います。

 

第一版 7/29

第二版 7/30

第三版 8/4

第四版 8/5

第五版 8/6